「家の中から赤ちゃんの泣き声がする」
中古住宅を買った後輩が、深夜に電話してきた。
来年の始めに第一子が生まれる予定の新婚夫婦。
「このままでは妻が……」と泣きながら話す後輩が不憫になり、
霊感どころか、霊の存在すら眉唾な俺が早速お邪魔する事になった。
妊婦のケアにうちの嫁も同伴することに。
車で10分、築5年も経っていないのに、何やら怪しい雰囲気。
そんな怖い話を聞いたからなのか、それとも、その家が持つものなのか。
後輩の携帯に電話し、到着した事を伝える。
玄関のドアが開き、後輩が顔をのぞかせる。
後輩はまさに蒼白。後輩嫁も寝室でガタガタ震えているらしい。
嫁を寝室に向かわせ、俺と後輩とで家中を見回った。
まだ引っ越し荷物も解かれていない家の中は、雑然としていて、生活感がない。
1階のありとあらゆる部屋をチェックしたが、例の泣き声は聞こえない。
後輩と2階へあがる。寝室をのぞくと、嫁のケアの甲斐があってか
多少は落ち着いたが、まだまだ心配そうな後輩嫁。
俺の顔を見ても会釈すら出来ないほど追い詰められているようだった。
嫁が俺に気付くと、「ちょっとごめんね」と後輩嫁に言って、俺の方に来た。
「この泣き声、聞いた事あるんだけど……」嫁は何かを思い出そうとする顔で言った。
どうやら寝室なら聞こえるようだ。俺は耳をすまして音源を探す。
ベッドの付近、鏡台、チェスト。段々と音がハッキリ聞こえてくる。
出窓の近くに設置されたテレビ。ここでもない。残るはクローゼット。
俺は後輩の許可を得て、後輩嫁と嫁を別室に行かせ、クローゼットを開いた。
クローゼットから聞こえてくるのは、ほぼ間違い無いようだ。
俺にも聞き覚えのある音。どこで聞いたのか思い出してると、
「あーーーーーっ!」と、隣の部屋へ避難中の嫁の声。
後輩と二人で「何だどうした大丈夫か?」と部屋に入ると、嫁は
「思い出した!バイブ!バイブの音だよ!」……はい?
「だから!この音。泣き声じゃなくてバイ……あ」
深夜、寝静まった住宅街で、ひと際大きな声でバイブバイブ。
自分の発した言葉が如何に恥ずかしいものかを認識した嫁は
漫画のようにボンッ!と赤面し、俯いた。
同じ様に赤面し俯く後輩嫁。
後輩と一緒にクローゼットに戻り、中を捜索する。
クローゼットの奥深く、隠す様に置かれたフールトゥから
あの機械的な「泣き声」が聞こえていた。
若干だがうねうねと動くバッグ。とりあえず後輩が電源を切り、
バッグとともに隣の部屋へ。俺も笑いを堪えながらついて行く。
その後すぐに嫁とともに帰り、後日「片付けていたはずみで電源が」という
まさにとって付けたような理由を後輩から聞かされた。
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